今回は、発達障がいの子どもたちの「言葉の発達」についてのアプローチについて紹介します。
自発的に話す事をしない、言葉の引き出しが少ない、人の気持ちを考えずに良くない言葉を吐いてしまう…などなど、言葉の課題にお困りの親御さんも多いかと思います。
そんな親御さんに認識していただきたいことは、「言葉の視点」です。
「言葉の視点」について認識し、お子さまの言葉の現状を正確に把握し、その視点を踏まえた働きかけを行うことで良い効果を生み出すことができます。
ではいってみましょう!
目次
言葉の視点とは
言葉の視点については大きく2つの視点があります。それは「広さと深さ」です。
言葉の広さ:語彙力、単語の量
言葉の深さ:言葉の意味を身に付けているか。
これらの視点で、言葉の土台をどのように育んでいくかがキーとなっていきます。最近よく「語彙力」という単語を耳にすることが多いですが、一般的な意味はこちらです↓
その人がもっている単語の知識と、それを使いこなす能力
ここで先ほどの視点を当てはめると、言葉の広さが量であり、言葉の広さが質になります。したがって言葉の視点というのは「語彙力」のことになります。
語彙力とは、ただ言葉のや言い回しを記憶しているだけではなく、適切に選び、使うことができる力です。このように語彙力には「知っていること」と「使えること」の2つの側面があります。
多くの大人が把握している言葉の視点は「広さ」がメインとなっていて、「深さ」についてはしっかりと意識されていないこ場合があります。
言葉の質に着意した視点
自閉症スペクトラムの小学校の男の子の場合
言葉が非常に達者で、難しい言葉も交えながらスラスラと話します。
しかし、人の感情や言外の意図を汲み取るのが苦手
何か自分の気に入らないことがあれば、ついつい暴言がでてしまうこともしばしば…そして、自分の暴言は棚にあげて、気に入らない行動について攻め立てることがある
暴言を交えながら攻め立てるため、友達からも距離を置かれ、人との関わりが少なくなってきた。
大人からの指導も言葉巧みに自己防衛する様子が見られる。
※特定の子どもを指しているのではなく、特性を考慮したケースを例示しています。
このようなケースは、指導する大人(親)に言葉の広さ・深さの視点が必要な、典型的な事例です。
流ちょうに話すことができる子を見ると、大人はつい、十分に言葉が発達していると思い込んでしましますが、実は、その言葉には「広さ」だけが育っていて、「深さ」が育ちきっていないことがよくあります。
「人の感情や言外の意図を汲み取るのが苦手」という特性上、一般的な特性を周りが理解をしているので、「暴言を吐く」その行動が良くないことであると理解しきれていない場合があります。
大人(親)からの指導に対して言い訳をするという行動も、大人からは「自己防衛による言い訳」と見えますが、子どもにとっては「叱られているから反射的に反発した」という反応であることが多いのです。
言葉が得意なお子さんは、言葉で畳み掛けられるととっさにスイッチが入って、言葉で攻撃的に反発してしまうことがしばしばあります。
この場合は、言葉の争いに勝つことに意識が集中しているので、自分が使っている言葉がどれほど相手を傷つけるか、相手にどんな印象を与えるかは意識していません。
相手が伝えてくる言葉の裏にある指導の真意も伝わっていません。
このようなケースでは、物事の意味を汲み取りにくいお子さんには、大人(親)の意図した指導はほとんど通じていないのです。
言葉の「広さ」だけが発揮され、「深さ」が未熟な一例です。
視点に着意した働きかけ
発達障がいを持つ子どもたちに対し、言葉の質(深さ)の理解を促すためには、どのような働きかけを行っていけばいいのか?ここでは3点紹介します。
問題に至る経緯や背景を探る
問題の行動に至るまでには、何かしらの原因が必ず存在します。その経緯や背景を探り、その事実に対し否定をすることなく共感するところから入ります。
共感を行ったのちに、例えば、暴言を吐かれた時の相手の気持ちをを考えたり、棚上げした自分の良くない行動と向き合っていきます。
そういった相手の気持ちを考える類の絵カードやイラストで丁寧に説明をすると理解を促すことができます。また、その時の双方の気持ちや事情など、目に見えない背景をできる限り文字で書いて表現するとわかりやすくなります。
必要に応じて、適切な言葉のやり取りの仕方をロールプレイ形式で練習するなど、ソーシャルスキルのトレーニングも行うと効果的ですね。
人の気持ちの変化を知る
最初に暴言を吐かれて、快く許してくれた友達も、度重なる暴言が続くと不快な気持ち、いわゆる不信感を抱きます。
それに気づかずに、暴言を吐いたり、相手の非を攻め立てる言動をすると、必ずトラブルとなります。
人の気持ちは変化することを、場面ごとに分けて理解を促しながら伝えると効果を期待できます。
すぐに理解することは難しくても、気づきのきっかけができればひとまずよしとし、働きかけを継続しましょう。
周囲への心のケア
悪意があって暴言を吐いたり、責めたてているわけではないことを、背景も交えながら丁寧に伝えてあげましょう。
お友達にも怒りや戸惑いなど、さまざまな思いがあるはずです。
暴言を吐く子どもの思いや事情を押し付けたり、無理に理解を求めたりするのではなく、一人ひとりの気持ちを大切に受け止め、自分で気持ちを昇華させることができるよう、サポートしてあげましょう。
言葉の質(深さ)を育む方法
言葉の質(深さ)を育む方法には、大きく「言葉の量(広さ)を利用する」「経験・体験を増やす」2点あります。詳しく説明していきます。
言葉の量(広さ)を利用する
言葉が量(流暢にお喋りする)が豊富な子どもは、十分に言葉の広さを持っています。これは、言葉の深さを育てるためにとても有利になります。
ケースで挙げた子どもの場合、たくさんの言葉(知識)を持っているため、新しいことを覚えるのではなく、すでに持っている知識を深めていくことが、習得がスムーズだと考えられます。
指導する際は、子どもが知っていることと関連づけて働きかけると効果的です。
経験・体験を増やす
本来、言葉とは、心の動きを表現するもの。人は物事を体験し経験を積むことで印象深い出来事を心に留めることができます。
言葉の「広さ」は、単純な知識として身に付けることができますが、「深さ」は、自分で体験することでしか身に付けられません。
子どもの心身の状態に合わせて、様々な人に会い、様々な経験を積める機会を積極的に設け、より複雑な心の動きを体験し人生に色付けを行うことで、心も言葉も豊かにしていきます。
言葉の量(広さ)を育む方法
ここまで「言葉の質(深さ)」を育む方法を紹介してきましたが、最低限の「言葉の量(広さ)」も身についていない場合はどうすればいいのかを紹介していきます。
いろいろな人と接する習慣、幅広い読書の習慣、多様な経験を積む習慣を身につけることで言葉の量(広さ)が育まれていきます。
詳しく説明していきます。
多くの人と会話をする
言葉というのは、人から人へ感染します。
例えば、関西弁の方と四六時中共に生活をしていると、その訛りが無意識のうちに自分に移ってしまっているような経験はありませんか?これは言葉が感染しているのです。
方言を例に挙げましたが、言い方や単語についても同じです。年齢(年代)、性別、職業、生活区域が違うと、使われている言葉も微妙に違ってきます。いろいろな人と話すことで、語彙の量を身につけられます。
積極的に会話をする習慣や場を設定して言葉の広さ(量)を広げていきましょう。
幅広いジャンルの読書
読解力のある子どもについては、読書は最も効果的です。ただ、1つに偏った読書をしていると言葉の傾向も偏っしまう恐れがあります。
たとえばビジネス書ばかり読む、スポーツ雑誌ばかり読むなど。そうなると、その分野の語彙にある程度詳しくなると、身につく語彙の量ががくんと減ってしまいます。
趣味という観点では決して悪くはありませんが、多くの事柄に興味を持つことが出来ないと豊富な言葉の量は身につきません。そういった意味で様々なジャンルの本に挑戦してください。
多様な経験を積む
「言葉の質(深さ)」でも紹介した方法ですが、多様な経験を積むことで「言葉の量(広さ)」を身につける上でも非常に有効な手段です。
実際に、外での関わり(友達と公園遊びしたり)が少ない子は、学力が伸び悩む傾向があります。それは、外で遊ぶよりも中遊び(ゲームなど)を行い、人と触れる機会が少ないからであると考えられます。
例えば、頻繁に旅行に連れて行ってもらえている子どもは、その行き先で新しい出来事を発見します。その意味を親との会話で覚えていくことで、旅行先で得た出来事から言葉への知識が身に付いていきます。旅行先の地名や食べた郷土料理の名前など、経験を通して得ることが必ず存在します。
さまざまなことに関心を持ち経験することで、自然と言葉の広さ(量)は広げていくことができます。
さいごに
言葉の広さや深さは、目に見えにくく、爆発的に成長することはありません。日々の積み重ねにより少しずつ効果が出てくるものである認識を持たれてください。また、どこまで育てば完成というものでもありません。
言葉の広さや深さは、その人の人生の道のりを表していきます。単なる対人スキルは練習によって修得していくことができますが、幅広い言葉や人の言葉が持つ深い意味は、人生経験そのものの中から磨かれてくるものだと思います。
どんな人間であろうと、言葉は磨いていくことができます。ご紹介した視点を持ちながら、子どもそれぞれの特性に有効である方法を試してみながら「言葉」を磨いていってもらいたいです。
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